この記事について
本記事に広告・アフィリエイトリンクは含まれていません。当サイトは獣医師によるものではありません。動物の体調や行動についての判断は行わず、研究や獣医療団体が公表している内容を紹介するにとどめています。
情報の確認日
2026年8月26日
気になる変化がある場合は、この記事を読む前に動物病院へご相談ください。
一緒に暮らしていた子を見送ったあと、残されたもう1匹の様子が変わった。食べる量が減った、鳴くようになった、ずっとくっついてくる、逆に隠れてしまう。
「この子も悲しんでいるのだろうか」と思う方は多いと思います。
この記事は、その問いに答えるものではありません。研究が何を報告しているかを、正確にお伝えするだけです。そして先に、いちばん大事なことを書きます。
まず、動物病院に相談してください
食欲が落ちた、動かなくなった、隠れるようになった。これらはすべて、病気の症状でもあります。
英国の獣医療団体が、同じ趣旨のことを書いています。
- International Cat Care(猫専門の獣医療慈善団体):食べなくなった、あるいは病気の兆候がある場合は、できるだけ早く獣医療チームに連絡してほしい。何であれ、感情的な原因によるものだと決めつけるべきではない、という趣旨
- PDSA(獣医療慈善団体):行動の変化に気づいたら、念のためまず獣医師に診てもらうのがよい。私たちが悲嘆と見ているものの一部は、医学的な問題の症状でありうる、という趣旨
- RSPCA:食欲や行動の変化は、苦痛のサインにも病気のサインにもなりうる。心配なら待たずに獣医師に相談を、という趣旨
「悲しんでいるのだろう」と解釈することの本当のリスクは、ここにあります。受診が遅れることです。
この記事の残りは、受診したうえで読んでください。
どんな変化が報告されているか
この領域には査読を経た研究が3本あります。いずれも飼い主への質問紙調査で、研究者が直接観察したものではありません。この点は最初に押さえてください。
犬について|イタリアの426名への調査(2022年)
Uccheddu らが2022年に Scientific Reports に発表した研究です。2頭以上の犬を飼っていて、1頭が亡くなり他方が存命だった飼い主426名からの報告です。
| 報告された変化 | 割合 |
|---|---|
| 甘える・かまってほしがることが増えた | 67% |
| 遊ばなくなった | 57% |
| 活動量が減った | 46% |
| よく寝るようになった | 35% |
| 怖がりになった | 35% |
| 食べる量が減った | 32% |
| 鳴くことが増えた | 30% |
同じ研究では、2頭が一緒に暮らしていた期間の長さは、残された犬の行動に影響しなかったとも報告されています。長く一緒にいたほど変化が大きい、というわけではなかったということです。
猫について|オーストラリア・ニュージーランドの調査(2016年)
Walker らが2016年に Animals に発表した研究です。犬159頭・猫152頭についての飼い主の報告です。
| 報告された変化(猫) | 割合 |
|---|---|
| 愛情表現に関する行動の変化 | 78% |
| 縄張りに関する行動の変化 | 63% |
| 鳴く頻度の変化 | 46%(うち43%は増加) |
| 鳴き声の大きさの変化 | 35%(うち32%は増加) |
同じ研究の犬では、愛情表現に関する変化が74%、縄張りに関する変化が60%、睡眠の変化が42%、食事量の変化が42%と報告されています。
猫については、2024年に Applied Animal Behaviour Science に発表された研究もあります(Greene and Vonk)。飼い主412名・猫452頭が対象で、亡くなった子との関係が良好だったほど、睡眠・食事・遊びが減ると報告されたとしています。隠れる、一人で過ごす、いなくなった相手を探すように見える、といった行動も挙げられています。
なお、この2024年の論文には「猫についての研究としては、これが2例目にすぎない」という趣旨の記述があります。猫についてはデータそのものが少ないということです。
どのくらい続くと報告されているか
イタリアの研究(2022年)では、変化が続いた期間について次のように報告されています。
- 6か月を超えた:24.9%
- 2〜6か月:32.2%
- 2か月未満:29.4%
2016年の研究では、犬猫いずれも中央値は6か月未満とされています。愛情表現や睡眠の変化は2〜6か月、縄張りや食事の変化は2か月以内が中央値だったと報告されています。
ただしこれは「何か月で戻る」という保証ではありません。報告された期間の分布であって、目の前の子に当てはまるとは限りません。
これは「悲しんでいる」証拠ではありません
ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。
研究者自身が「確認できない」と書いています
2022年のイタリアの研究は、論文のタイトルに「grieve(悲嘆する)」という語を使っています。それでも、結論にはこう書かれています。
However, even if we recognise the importance of these results, we still cannot confirm it was grief.
(これらの結果の重要性を認めるとしても、それが悲嘆であったと確認することは、依然としてできない)
2024年の猫の研究も、飼い主が自分の悲しみを投影しているのか、猫自身が何かを経験しているのかを判断するには、さらなる研究が必要だとしています。
どの査読論文も、「動物も悲しむ」と断定していません。
飼い主の悲しみが強いほど、変化が報告されやすい
これは重い所見です。
2022年の研究は、飼い主自身の悲嘆が強い場合に、残された犬の食欲低下が報告されやすくなるという関連を報告しています。2024年の猫の研究でも、飼い主の悲しみと、甘える・隠れる・よく寝るといった報告との関連が見られたとされています。
独立した2本の研究で、同じ方向の関連が出ています。
これが何を意味するかは、慎重に読む必要があります。飼い主が悲しいときほど動物の変化に気づきやすい、という可能性もあります。飼い主の状態が実際に動物に影響している、という可能性もあります。研究はどちらとも断定していません。
研究者はこの点について、擬人化(人の感情を動物に当てはめること)が影響している可能性や、飼い主が犬の悲嘆を過大に報告する傾向がありうることに触れています。2016年の研究は、変化に気づいた人ほど回答した可能性が高いという調査自体の偏りにも言及しています。
だから、こう書くしかありません。報告されているのは飼い主から見た行動の変化であって、動物の内面が証明されたわけではありません。
「遺体を見せると理解する」は、研究では支持されていません
よく見かける説明です。「最後に会わせておくと、いなくなったことを理解して落ち着く」。
独立した2本の研究が、これを支持しない結果を報告しています。
- 2016年の研究:遺体を見た個体と見なかった個体とで、報告された行動の変化に差はなかったとしています。なお遺体を見た個体の多くは、においを嗅ぐなどして調べる行動を示したとも報告されています
- 2022年の研究:遺体を見たかどうかは、行動の変化が続いた期間に影響しなかったとしています
ただし、「見せてはいけない」という根拠でもありません。差がなかった、というだけです。
International Cat Care は、感染症の心配がなく、状況として無理がなければ、見せることに害はないという趣旨を書いています。一方で、遺体についた慣れないにおいに強く反応する猫もいる、とも記しています。
会わせても、会わせなくても、どちらでも構いません。「会わせなかったから理解できていないのでは」と悔やむ必要は、少なくとも研究の上ではありません。
火葬当日にほかの子をどうするかについては、ペットとのお別れが近いとき、先にしておけることにも書いています。
できることとして挙げられていること
獣医療団体が推奨している内容を紹介します。ただし、これらの効果を検証した研究は見つかりませんでした。専門家がそう勧めている、というところまでです。
生活のリズムを変えない
International Cat Care、Blue Cross、RSPCA の3団体が、いずれもふだんの生活リズムをできるだけ保つことを勧めています。食事や散歩の時間が変わらないこと自体が、動物にとって意味を持つという考え方です。
見送りの直後は、家の中の動き方も、飼い主の気持ちも変わります。それでも、決まった時間に食事が出てくることは保てます。
新しい子を急いで迎えない
獣医師が執筆している資料には、新しい動物を迎えることが、すでにストレスのかかっている状況にさらなるストレスを加えることになりうる、という趣旨の記述があります。Blue Cross も、急がないよう勧めています。
ただしRSPCA は、動物の種類によって推奨が違うとしています。「すぐに迎えないほうがよい」を、すべての動物に一律に当てはめることはできません。
また、International Cat Care は、長年連れ添った相手の代わりに若く活発な子猫を迎えることは、通常は適切な代替にならないという趣旨を書いています。
日本の研究は見つかりませんでした
この記事で紹介した研究は、イタリア、オーストラリア・ニュージーランド、アメリカのものです。
日本でこの領域を扱った研究や、獣医師会・学会・大学の資料を、確認できませんでした。J-STAGE と CiNii、日本獣医師会や獣医系大学のサイトを探しましたが、見つかったのは別のテーマの文献ばかりでした。
日本語で検索して出てくる記事の多くは、事業者やメディアによるもので、根拠が示されていません。この記事で数値を海外の研究から引いているのは、そのためです。
よくある質問
残された子は、悲しんでいるのでしょうか
研究では確認されていません。報告されているのは飼い主から見た行動の変化で、論文自身が「悲嘆であったと確認することはできない」としています。
悲しんでいないという意味でもありません。確かめる方法がまだない、ということです。
ごはんを食べません
動物病院に連絡してください。食欲不振は病気の症状でもあります。獣医療団体も、感情的な原因だと決めつけないよう促しています。
とくに猫は、食べない状態が続くこと自体が体に負担になります。様子を見る前に相談してください。
いつまで続きますか
研究では、6か月を超えたという報告が約25%、2〜6か月が約32%、2か月未満が約29%でした。中央値は6か月未満とする報告もあります。
これは分布であって、目の前の子の見通しではありません。長引く場合は、やはり獣医師に相談してください。
最後に会わせてあげられませんでした
研究では、遺体を見た個体と見なかった個体で差は報告されていません。会わせなかったことで何かが悪くなった、という根拠は見当たりませんでした。
私が泣いていると、この子にもよくないですか
飼い主の悲しみの強さと、動物の変化の報告されやすさに関連があることは報告されています。ただし、それが何を意味するかは分かっていません。気づきやすくなるだけかもしれませんし、実際に影響しているのかもしれません。
泣かないようにしてください、とは書きません。そんな根拠はありませんし、我慢することを勧める話でもありません。
飼い主自身の気持ちについては、3匹の愛犬を見送って気づいたことに、運営者の体験を書いています。
さいごに
「この子も悲しんでいる」と思うことは、自然だと思います。それを否定するために書いた記事ではありません。
ただ、そう解釈することで受診が遅れることだけは避けてほしいと思っています。食べない、動かない、隠れる。これらは病気の症状と見分けがつきません。
研究で分かっているのは、同じような変化が多くの家庭で報告されているということまでです。あなたの家だけで起きていることではありません。
見送りの手順や、これから必要になることはペットが亡くなったら最初にすることにまとめています。
主な参考資料
- Uccheddu S, et al. “Domestic dogs (Canis familiaris) grieve over the loss of a conspecific.” Scientific Reports 12, 1920 (2022).
- Walker JK, Waran NK, Phillips CJC. “Owners’ Perceptions of Their Animal’s Behavioural Response to the Loss of an Animal Companion.” Animals 6(11), 68 (2016).
- Greene B, Vonk J. “Is companion animal loss cat-astrophic? Responses of domestic cats to the loss of another companion animal.” Applied Animal Behaviour Science 277, 106355 (2024).
- International Cat Care「Feline bereavement」
- PDSA「Pets and loss: can pets feel grief?」
- RSPCA「Do pets grieve when another pet dies?」
- Blue Cross「How pets cope with loss」
- VCA Animal Hospitals「Do Dogs Mourn?」

コメント